PROJCT STORY
Project story01
前触れもなく舞い込んだ、ヨーグルト工場の新築設備工事。
空調・給排水衛生設備とともに、乳製品製造工程の生産ラインへ供給する蒸気や冷却水、
圧縮空気などの「ユーティリティ」設備も設計・施工の要所となる。
しかし工期が迫る中、各種仕様に基づく契約金額が決まらず、いくつもの技術的課題も予見されていた…。
須賀工業の担当者たちは、このプロジェクトにどう取り組んでいったのか?
2014年6月、当社は、大阪支社の顧客である設計事務所から、埼玉県に新築するヨーグルト工場の空調・衛生・ユーティリティ設備に関する設計協力の依頼を受けた。建築主は初めての取引先ながら、大手食品メーカーのバックボーンがあり、当社にはこれまで数多くの食品関連工場に関する設計施工実績がある。新たな顧客開拓となる本案件への参画を目指し、建設地が行田市であることから、北関東支店長の山谷が営業担当として動き出した。
「営業の仕事はお客様と会社をつなぐパイプ役です。まず、本案件の関係顧客、施設概要、予算(工事予定価格)、設計、着工・竣工までのスケジュールなど、お客さまの要望を確認整理します。そして工事概要を社内の関係部署に報告し、受注に向けた業務がスタートします。その後、設計に基づく見積提示と仕様変更に伴う見積再提示を何度か繰り返し、仕様・工事価格が合意されてようやく契約となります」
設計に当たったのは、東京支社設計部設計課の宮﨑。上司である設計課長・栗原が、食品工場や薬品工場の設計経験を活かして、宮﨑のサポート役を務めた。まず直面する問題は、着工開始まで約半年というスケジュールの厳しさだった。
「すぐに大阪で打ち合わせがあるということで、営業担当とともに駆けつけたところ、狭い部屋に施主から建築会社、生産機械や電気設備会社まで、工事関係者が20人くらい集まっている。通常は設計事務所が間に入って情報を整理してくれたりするのですが、この場面ではそれぞれが直接交渉を始める勢いでした。おかげでまわりの人たちに早く顔を覚えてもらい、密なつながりができました」
「最初の設計と見積が上がった時点で、予算を大幅に超えてしまい、設計部にはコストを下げるために何度も仕様変更と再見積をお願いしました。価格交渉がまとまらず、社内調整に非常に苦慮しましたが、最終的にはお客さまの理解と協力を得て、着工寸前で無事に工事価格が決定しました」
ヨーグルト工場の空調・衛生・ユーティリティ(製品を作るために使用される蒸気や冷却水、チルド水、圧縮空気など)の設計・施工にあたっては、乳製品の製造に関わる専門的な技術要素が不可欠となる。
「まず我々がすべきことは、お客さまが何を望んでいるのかを正しく知ること。そのためには、ヨーグルトの製造工程を知る必要があります。原料の牛乳がどのように工場に運ばれ、どういう工程を経てヨーグルトになるのか。製品としてどういう形で工場から出ていくのか。その工程を知り、製品の品質を左右する要因を理解する。そして機械設備の面から、品質に寄与するには、トラブルを未然に防ぐには何ができるのかを考える。これらを組み立て、提案していくのが設計の仕事となります」
宮﨑にとって、工場設備の設計を担当するのは初めてのこと。これまで手がけた事務所ビルなどとの違いに直面し、お客さまの製品の品質に大きな影響を与えることに重責を感じた。最初に立ちふさがったのは、コストという壁だった。
「ヨーグルト工場では主役は乳酸菌なので、カビ胞子など他の菌の混入を防がなくてはなりません。また、交差汚染防止への配慮や、ゾーニングと言った点も見逃せません。製造工程の起点となる部屋には、新鮮な空気を大量に供給して他へ排出する、換気にも空調にも考慮したシステムの構築が不可欠です。しかし当初の設計案は、多くの資材と施工時間を必要とし、予算を大幅にオーバーしていました」
コストを下げるためには、全室を通じてダクト(送風管)を極限まで減らすしかない。製品の品質保持と予算との兼ね合いに苦闘する宮﨑は、パズルのように部屋と部屋の位置関係を考え直し、最も清浄度の高い部屋の空気を、順送りに清浄度の低い部屋へ流し込むカスケード換気方式にたどり着いた。
「最初に供給される空気は、外気処理機で清浄度とともに温度も調整しているので、そのまま外に排気してはもったいないと気付いたのです」
この方式の採用によってダクトの設置箇所が絞り込まれ、イニシャルコストの削減につながった。またそれに伴い、工場全体で取り入れる外気量も削減されることから、空気の搬送や冷却に関わる部分でも大幅な省エネルギーを実現する結果となった。
2015年1月、現場は着工の日を迎えた。まずは建築会社が杭を打って基礎工事を進め、鉄骨を組み上げる建方工程に入る。設備工事の監督者として大きな責任をもつ現場代理人には、それまで山口県の大型現場で施工管理に携わっていた石堂が抜擢された。彼に課せられたのは、製品の発売時期を早めるための工期短縮だった。
「埋設配管工程と鉄骨建方工程が重なって、工程調整に苦労しました。基礎工事が終わって鉄骨を立てているところを避けて、こちらは地下を掘って配管を埋めたいと申し出る。工程のタイミングをはかってチャンスを見つけて、ここで工事やらせてくれって乗り込んで。その繰り返しです。スピード感は半端ではないし、そうやって走っている時にまた設計変更があったりして、たまらなかったですね(笑)」
たとえば排水処理の問題があった。建物1階の土間の中に排水管を巡らせて最後に処理槽へ落とそうとすると、自然勾配で排水を流すため、距離が長くなるほど掘削の深さが必要になる。建物の中は基礎ができているから、その中を深く掘るというのは工期も長びきコストもかかる。それなら配管の取り回しを設計変更して、早い段階で屋外に導いてしまえば、掘削作業も簡単になり、建築会社も屋内の工程をスムーズに進められるではないか。こうした状況に応じた設計変更が可能になったのは、設計担当の宮﨑が現場に常駐することになったからだ。
「設計担当の現場常駐は当初から施主の要望でした。現場事務所が出来上がって行ってみると、製品販売元メーカーの部屋がすぐ隣だったり、大阪で打ち合わせをした顔ぶれがまたワイワイと集まっていたり。当社現場所長の石堂とは以前に別の現場で一緒だったので、話は早かったです」
「みんな親密感があって、いい空気でしたね。この現場では僕も初めて後輩二人を預かる身になって、彼らを積極的に打ち合わせに参加させてました。そうすると、こちらに質問してくる内容が、毎週毎週レベルアップしてくるんです。それを見ているのが新鮮で楽しかった」
埋設配管については、鉄骨建方工程の追い掛け工程を作成し、建築会社との調整を重ねて、結果的に予定より2ヶ月も早い施工が可能となった。
工場の建設地である行田市は、夏の暑さで知られる館林市や熊谷市に隣接し、真夏の気温は40℃近くになることも珍しくない。機械室にはユーティリティを供給するための蒸気ボイラーやコンプレッサーが設置される。こうした工場の心臓部となる機械が暑さで運転停止しないような対策をとることも、設計に課された使命だ。
「当初は空冷式に決まっていた機械を水冷式に変更し、もともとは製造用の冷却システムの能力を上げて、機械の冷却用と兼用させることにしました。こうした暑熱対策と同時に、万が一の製造ラインへの汚染を防ぐ安全策として、牛乳よりも冷却水の圧力が高くならないように自動で圧力コントロールを行う仕組みも取り入れました」
こうしていくつもの課題を解決しながら、2015年10月に工事は無事に完了した。設計や施工の進捗とともに、現実に次々と問題点や懸案事項が出てくる。それらの課題に対し、どのような解決策が考えられるか。それを実行して、どんな結果を招いたか。栗原は、基本設計の段階から、さまざまな岐路で一つの方法を選んだ理由や、中断した場合はその方法を否定するに至った過程までを、すべて記録して残すように宮﨑に指示していた。
「そういったものを設計説明書として施工部隊に引き渡さないと、工事の担当者も、この図面がなぜこういう形になっているのか、その経緯や理由がわからない。だから人に見せることを前提として、何度も書き直しを命じました」
「最終的には図面や手順書が膨大な量になりましたが、お客様と設計事務所から高く評価していただき、まとめて製本したものを送ってほしいと言われました。それがすごく嬉しかったですね。それから、最後に試運転調整をした時の結果を教えてもらったところ、絵に描いたようにイメージ通りのデータが出てきたんです。自分が設計して、図面通りに作ってもらって、求められた性能がしっかり守れたということに感激しました」
今、その分厚い設計説明書を前にして、4人はプロジェクトの渦中にいた日々を思い起こす。
「現場では思った以上に自分の力不足を感じ、多くの人にさまざまな形で支援していただきました。それが反省点となり、そこから自分の中で仕事への取り組み方がガラッと変わりました」
「設計・施工とも準備期間が本当に短い中、皆さんが力を合わせてくれたおかげで、お客さまに喜んでいただける結果となりました。初めての施主さんでしたけど、その後に親会社をはじめとしていろいろ引き合いをいただき、すでに西日本の関連会社で新工場の契約につながっています。新規顧客とのお付き合いがこうした形で良い成功事例になったことは、担当営業として一番嬉しいですね」
東京支社設計部部長。当時は設計課長。
1994年入社。工学部建築学科卒業
「新工場の稼働後、お客様側で試算した電力やガスの消費量を大幅に下回る省エネルギーの成果があったと聞いています。一緒に問題解決に取り組んだ信頼関係は強く、現在も連絡を取り合う関係が続いています」
部長職に就いた今、設計の実務とは離れているが、どうしても現場の様子が気になってしまうところは変わらないと笑う。オフタイムは本格的にロードバイクにはまり、年間12000kmを走破。レースにも出場する。
横浜支店工事部設計課主管。当時は東京支社設計部設計課に在籍。
1995年入社。理工学部工業化学科卒業
「お客様や設計事務所とお互いにアイデアを出し合い、より良い物を創り出せたと思っています。設計担当者として現場に常駐した時に、宮﨑さん宮﨑さん、と頼っていただけたことが嬉しかったです」
現場には外部業者で空調のスペシャリストがおり、その仕事ぶりに学ぶところも大きかったという。栗原に誘われてロードバイクに乗り始めたほか、ゴルフを楽しみ、スキーでは1級検定に合格するなど、オフタイムも充実。
東関東支店工事部副主管。当時は北関東支店工事部に在籍。
2006年入社。建築学部建築学科卒業
「本プロジェクトで繰り返し協議して決まった器具や配管について、他工場でも採用を検討したいとのお話を頂きました。竣工後も工事関係者との繋がりがあり、次回の工事受注に結びつく関係を築けたと思います」
入社後は工事一筋に各地を飛び回り、現在は都内の大型現場で現場代理人の大役を務める。3歳になる子供と一緒に、公園を散歩したり走ったりするのが休日の楽しみ。
北関東支店支店長。当時も現職。
1990年入社。経営学部経営学科卒業
「本案件のお客様からは、拡張可能性についても相談されています。また親会社のほうからは、群馬工場、赤城工場の諸工事の見積引合いもいただけるようになりました。これも、当社の技術を信頼していただいているからこそであると思います」
夏場の暑さで知られる行田市で、心配された夏季の空調温湿度測定値も良好。予想していたランニングコストを大幅に下回っていることも喜ばれているという。オフタイムには散歩や野球観戦を楽しんでいる。
工場で作られている製品。近くのスーパーマーケットで見かける時には感慨深いものがある。
竣工後、くじらい乳業(株)の工場長と会談。工場は順調に稼働しており担当者として一安心。さらに労いの言葉までいただき、お客さまとの信頼関係を感じた瞬間だった。
後日工場を訪問した際に、お客さまからこんな言葉をいただきました。
『2017年末に「総合衛生管理製造過程承認施設」(HACCPを導入している施設)の認証を取得しました。
この取得は、須賀さんに設計施工していただいた設備の下支えがあったからこそと考えます。』
当社の設計・施工の技術が、HACCP認証取得の一端でお役に立てたことを誇りに思っています。
HACCPとは、「Hazard(危害)」「Analysis(分析)」「Critical(重要)」「Control(管理)」「Point(点)」の頭文字を並べたもので、食品を製造する上での衛生面での安全を確保するための管理手法のことをいいます。HACCPの導入には12の手順を定める必要があり、その基準が、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、危害要因を除去又は低減させるために確実な管理がなされるかを継続的に監視し、記録する衛生管理手法として第三者から認証を受ける必要があります。